患者さんとお話ししていて、ちょっと思い出したことを書きます。(実はいつも忘れているわけではなく、心の中にいる私にとって大事な話です)
私が病院で看護師をしていた時、ある患者さんに出会いました。
当時私は看護師5年目くらいだったと思います。
その患者さんは、私のいた病院での手術を希望して他の病院から紹介されてやってきました。
前の病院からの事前の申し送りに「現状をよく理解していないような発言が見られる」とありました。
病気のことや治療のことを理解しようとしない、心理的な抵抗があって現実を遠ざけてしまうということは実際にあります。
そして極端な治療を求めたり、反対に無治療を選んだりすることなどもあって、患者さんの不利益につながることもあるので、病状を正しく理解する、受け止めるということは大事な段階であると言えます。
私はその患者さんの受け持ち看護師になることが決まっていたので、どんな人かしら、と思って少し構えていました。
でも、実際に会ってみたら理解力の低い人ではない印象を受けました。
そして、とても壁を感じたのを覚えています。
こういう時は、なんとなくやりにくさを感じながらそのまま過ごすという方法と、一回しっかり向き合ってみるという方法があると思っていましたが、一回じっくり話してみる方を選ぶことにしました。
勤務後の時間が取れる時に、二人で誰もいないロビーのソファーで話をしたのを覚えています。
「実はこんな話を聞きました。でも状況をしっかり捉えていない風には私には思えなくて。。。」と話したら彼はこう話してくれました。
「自分の病気や治療について、自分のことだしわかっているつもりです。
でも、父親として治らないと思って治療しているとは息子達に言えないし、言いたくない。
自分も治したいと思っている。治ると信じて治療していきたいと思ってます。」
この時、患者さん達はそれぞれに色々な想いを持って治療に向き合っているんだ、と改めて感じました。当たり前なんだけれど。
病院の中にいると、同じ病気の人にたくさん出会います。その中で事象を正確に捉えること、伝えること、共有することを大切にしていたりします。誤解が生じないように、そんなの聞いてないよ、と言われないように。
そういう風に過ごしているとなんだか置いてけぼりになる気持ちがあったりします。それにも気がつかない時もあるくらい。
私は未熟な看護師だったので、なおさらに。(今でも未熟ですが・・・)
彼は「ちょっと変わった人」と思われていたかもしれないけれど、話してみれば「家族のために自分を奮い立てて頑張っている人」だった。
私が感じた壁は、変わった人だと思われてるんだろうな、という諦めみたいなものでした。
その後入院の度、外来通院の度に私は彼といろんなことを話しました。治って欲しいという気持ちを持って。
途中で治療の診療科が変わってしまったり、私が病院を辞めてしまったので、彼が元気に過ごしているか、知る由はありませんが元気でいてくれるといいなと思います。息子さん達も大きくなっただろうな。
この時以降、決めつけないように、決めつけられないように、フラットな気持ちでいろんな話を聞けるように、といつも思っています。
なかなかいつもできるわけではないけど、意識して忘れないように。
治療の中で、悩んだり迷ったりしていると、スピード感についていけない感じがするときがあるかもしれません。
どんなにたくさん話を聞いてもらっても進めない気持ちの時もあるかもしれません。
早く治療を決めなくては、と焦ったり。先生がしびれを切らしているように思ったり。
はたまた、「じゃあゆっくり考えてみてね」って言われると、突き放されたように感じたり。
すごく難しいですよね、ほんとに。
治療のタイミングも大切な時もあります。
だからいつまでも決められないのは、不利益になるときもあります。
そんなに急がない治療のこともあるけれど、その時々によります。そのあたりも先生によく相談してみてくださいね。
一人で孤独に悩んでいるとあんまりいいことないかなーと思います。
同じ話も違う人から聞いたら違う風に受け取れるかもしれないし(セカンドオピニオンの良さはここにもあります。同じ治療を提案されても、二人に言われたら納得できることもあるし、違う先生に違う言い方で説明されたらなんだかしっくり納得できることもあります。新たな治療法を提案してもらわなくても、得られるものはある、と思います。ちなみに費用については保険適応外で病院によって設定が違います。相談したい先生がいる病院のホームヘージなどで確認してみてください。)、こういう考え方もあるんだなぁと気持ちがラクになるヒントが得られるかもしれません。
なんかまとまらない話になってしまいましたが、そんなに簡単に割り切れないよね、ということと、話してみるとお互いにいろんなことがわかるということ。
そして、みなさんに関わっている多くの人が、みなさんが元気に過ごせるといいなと思って、治ることを祈っていること、信じていることも忘れないでいてください。